骨盤のゆがみと女性の身体症状
骨盤の性差
これから先のお話は、いまのべた骨盤観察の定石をふまえて理解していただくとよいでしょう。
骨盤には男女の性差があります。一般に、男性の骨盤は縦方向に長く、起き上がった(後傾した)形態をしており、女性の骨盤は横方向に広く、前傾した(ヒップアップした)形態をしています。
筋肉の面でも、男性は腹筋が発達する傾向にあり、女性は骨盤底部の筋肉が発達する傾向にあります。そのことが形状や筋肉の働きにも大きな影響を及ぼしているのです。
「腰痛発生の生体力学」で紹介したように、わたしたちの身体は、生体ならではの高度な情報処理能力のおかげで、日常の生活動作で生ずる巨大なエネルギーや衝撃をたくみにコントロールしています。
男女の骨盤の形態の差は、男性の身体が鉛直方向の力を中心に活動するように進化し、女性の身体が骨盤の安定性を高める方向に進化してきたことを物語っています。
混声合唱団の歌う様子をよくご覧になってみてください。女性の歌い手は腰をどっしりと落ち着けて両足で大地を踏みしめるような力み方をしますが、男性の歌い手は上半身に力をいれ、左右どちらか一方にかたよった力み方になる傾向があります。
このような特性から、一般に女性の方が荷重のバランスがよく保たれ、関節が柔らかく、左右のかたよりが少ない傾向にありますが、長時間のデスクワークや立ち仕事に従事されている方は、前のページで紹介した右側荷重のかたよりが強くあらわれ、骨盤の形態に男性的な傾向が見られるようになってきます。
このような腰部のかたよりが強く残っていると、出産の時や出産で大きく骨盤が開いた後に、左右のかたよりが大きくなって、骨盤部に苦痛を感じたり違和感が出る場合があります。
右図にあるように、骨盤には中央部に弓状線というくびれがあり、この弓状線を境に大骨盤と小骨盤の二つの領域に分かれます。
弓状のラインにそって子宮広間膜という膜が広がり、そのなかに卵巣が埋め込まれています。左右の卵巣では、毎月20個程度の卵胞が成長し、そのなかでもっとも大きく成長したものが、卵胞をやぶって排卵されます。
これ以降、月経に至るまでの器官、卵胞から変化した黄体からは黄体ホルモン(プロゲステロン)が分泌され、授精にそなえて身体のなかで妊娠のための準備を進みます。排卵から月経に至るまでの時期は、高温期(黄体期)と呼ばれ、体温が高くなり、全身の代謝を高めて妊娠に備えた準備がおこなわれます。
このように骨盤内部の器官の働きが活発になるときには、この周囲の神経や筋肉に緊張があらわれます。
女性特有の骨盤の症状
女性のなかには、毎月の排卵から月経にいたる時期に頭痛や吐き気、動悸など、消化管や頭部に関係する症状に悩まされる方がいます。
骨盤を閉めつけるような痛みを感じたり、「腰椎のすべりによる腰痛」で紹介したように、骨盤の前側の縁(上前腸骨棘)」の内側に痛みが発している場合が多く見られます。
これらの症状は、女性のなかでもとくに骨盤の前傾の傾向が強い方に多く見られます。このような頭痛や吐き気には、頭部や消化管に配慮した調整をおこなうと同時に、骨盤の「歪み」をととのえ、いま紹介したような骨盤の違和感をしっかり取り除くことが効果的です。
頭部や腰部に強く響くような筋肉の緊張があらわれていますからしっかりゆるめます。「市販薬が効きにくい」「たくさん服用しなければおさまらない」といった頭痛でも多くの場合は鎮静されます。
また尾椎の先端(俗に「尻尾の先端」)に強い痛みを感じて、仰向けに寝たり、椅子に座るのがきついという症状も、女性に多い症状のひとつです。このような時、骨盤底部筋から下肢の内ももの筋肉の緊張が強くになっています。
このような場合も、骨盤のバランスを整え、骨盤底部筋や下肢の内転筋(うちももの筋肉)の緊張をゆるめることで、大きく症状が改善されます。
いずれの場合も、骨盤部にかかる大きな力に対処できるバランスをしっかり回復することが大切です。わたしたちの上体の重さをかりに20~30kgとすれば、水をいっぱいに詰めたポリタンク1~1.5個分くらいの相当な重みになります。
このとき働く物理的なエネルギーにしっかり対処できることが、骨盤内の器官の働きを正常に保つ上でも重要な意味をもっています。
骨盤のゆがみは、それ自体けっして大きなものではありませんが、そこを通過するエネルギーの大きさが骨盤調整の意義を大きなものにしているのです。
低体温症の方には、骨盤のゆがみを整え、荷重バランスを前側に誘導することで、体温が上がり身体がらくになったという方もあります。体温を生み出すもっとも大きな要因は筋肉です。その意味で、身体の荷重バランスの調整が重要な意味を持っているのではないかと考えています。