骨盤が歪むとはどういうことか?


人類の骨盤の特性を知ろう


骨盤は直立姿勢を支える上で、とても重要な部位です。骨盤部の歪みは身体のさまざまな動作、生理機能に大きな影響を持っています。その一方、近年の健康ブーム、ダイエットブームのせいで、骨盤についての非科学的な主張、行過ぎた宣伝が吹聴されている感も否めません。骨盤の持つ重要性について、冷静な目で理解していただくことが大切です。
 
人類とチンパンジーの骨盤の比較 上に掲げたのは、チンパンジーの骨盤と人類の骨盤です。両者の姿には大きな違いがあります。チンパンジーの骨盤は、背側に大きく板のように広がっているのに対し、人類の骨盤はおわん型をしていて、身体の側方まで広くおおう形になっています。
 
このような形状の違いは、人間とチンパンジーの運動特性の違いを反映しています。チンパンジーはほとんど直立二足歩行をしません。四本の手足を地面つけ、胴体は前傾姿勢を保った状態です。樹木の上では、手が移動手段になります。拇指以外の4指はとても長く、木にひっかかりやすくなっています。
 
これに対し、わたしたち人類はほとんどの時間、上半身を直立させて生活します。骨盤を土台に前後・左右・回旋の方向に張力をとって背骨をまっすぐに立てるのに適した形になっているのです。骨盤の骨の厚みは、そこにかなり大きな力が働いていることを示しています。
 
注目していただきたいの脊柱の位置です。チンパンジーの脊柱は骨盤の後方からまっすぐに伸びていますが、人類の脊柱はおわん型の骨盤の中心から後ろ向きに反りあがるように伸びています。中心軸となる脊柱をまっすぐ立てるために有利な点と同時に、むずかしさ同居しているのです。
 
わたしたちは、日常の歩行動作のほぼ半分の時間、片足立ちになります。チンパンジーに比べ人類の骨盤は腸骨陵がとても厚みを持っています。重さ20~30kg相当の上半身を片側の骨盤のみで支持しようとすれば、当然身体の反対側(足が地面から離れた「遊脚側」)には大きな押し下げの圧力が発生します。
 
これを制御するために、荷重側の腸骨陵には、大腿骨にむけて瞬間的にとても大きな力が発生します。このことは、骨盤の側面に手のひらを当てて歩いてみれば実感することができます。
 
日ごろ意識することがありませんが、発達した骨盤の周囲では、かなり大きな物理的なエネルギーがやり取りされているのです。


直立二足歩行の弱点が集約


骨盤の安定をはかる筋・靭帯群骨盤に分布する筋肉群が、身体の荷重バランスを中央に引き戻す防波堤の役割をはたします。身体が傾くと、骨盤には、荷重バランスを中央に引き戻そうとする力が強く働きます。
 
身体の重心線が足裏の基底面の中心から外れていくと、その距離に比例して直立姿勢を取るのが難しくなりますので、わたしたちの身体は、たえず身体の重心線を足裏基底面の中心に引き戻すように歪みます。
 
荷重バランスがかたよりが大きくなると、身体の安定性が低下すると同時に、関節にかかる負荷が大きくなって、関節を故障するリスクも大きくなります。
 
骨盤のゆがみはこのような力学的な影響によって生じます。
 
とくに歩行動作の半分の時間、身体は片足立ちになります。このとき身体が不安定になれば、疲労しやすかったり痛みがでたりします。これを防ぐ筋肉は、すべて骨盤を基点としています。骨盤は身体の安定性をもたらすもっとも重要な部位なのです。
 
身体の傾きに大して筋肉がもっとも最初に起こす反応が遠心性収縮です(詳しくは「姿勢のもとになる遠心性収縮」をご覧ください)。
 
このとき筋肉に蓄えられた弾性エネルギーを利用することによって「足を持ち上げる」「歩く」などの身体運動がはじまります。骨盤は、安定性のみならず、あらゆる身体動作の点でもあるのです。
 
このとき、骨盤の使われ方にはかならず左右のアンバランスがあります。言語や民族などにかわわらず95%の人が右利きです。右手と右足はひとまとまりで脳のコントロールを受けているので、ほとんどの人は右足が利き足です(※)。なにげなくサッカーボールをける時、はしごに足をかける時に、多くの人が無意識に右足を使うはずです。(※このことを一側優位性といいます)
 
右側に利き手、利き足があると基本的に身体の荷重は右側にかたよります。骨盤は右側が相対的に高い位置あり(=押し上げられた位置にあり)、身体は、無意識に右寄りにある体軸を中心に引き戻そうとする志向を持っています。このことが骨盤の姿に大きなかたよりを生むのです。
 
利き手利き足と骨盤のゆがみ 右図に示したのは、もっとも多く見られる骨盤の歪みの形です。腸骨と水平の高さにある腰椎4番が右の骨盤と強く結びつき、右側の骨盤が相対的に高い位置にあります。
 
この状態が長くなると、まず腰椎5番が前方に滑りながら左側に押しやられます。そして右側の股関節の動きが低下して、左足に外反母趾の傾向があらわれてくるのです。
 
このような基本形は、ひとそれぞれの日常動作や内臓の働きの個人差があらわれる基盤となります。
 
人それぞれの抱えている問題を把握する上で重要な特徴で、囲碁でいえば定石に相当するものといえるでしょう。