腸腰筋膜症候群による腰痛について
大腰筋と身体動作
直立した姿勢でご自分の背骨を押してみると、寝た状態と比べて、背骨が硬く固定されているのがわかります。直立した姿勢で、わたくしたちの背骨は硬く固定された状態になるのです。
「「機能的姿勢」という言葉を知ってください」でも紹介したように、機能的姿勢の発達は、脊柱をしっかり固定する能力の向上によってもたらされます。ここでとくに重要な働きをするのが脊柱の背面に密着した深層筋であることは、すでに紹介してきたとおりです。
じつはこのとき、腰椎の前側をはしる大腰筋も重要な役割をはたします。背面の深層筋と前面の大腰筋で前後から強い張力をかけ脊柱を硬く固定しているのです。腰椎4・5番の前方変位による腰痛の下地を作るのはこの大腰筋の緊張なのです。
大腰筋は、骨盤の内側をとおって下側の胸椎と大腿骨(の内転子)の間を結んでいます。腰椎を前側に引っ張ることができる唯一の筋肉です(※)。わたしたちのさまざまな日常動作は、この大腰筋によって支えられています。
(※)人によっては、もうひつ小腰筋を持つ人もあります。
たとえば歩行動作で足を前に上げる作用をするのも大腰筋です。大腰筋は、身体を前傾させると自然に緊張状態になります。これは重心を中心に引き戻そうとする安定性の志向によるもので、身体の前傾にあわせて大腰筋により大きな弾性エネルギーがたくわえられる仕組みになっています。このエネルギーを解放すると自然と足が持ち上がり、歩行動作が始まります。
わたしたちの身体は、重心を移動することによって、即座に歩行動作を開始できるように作られているのです。だから、とくに意識しなくとも歩くときに自然に足が持ち上がるのです。
逆に、大腰筋の働きに問題が生ずると、さまざまな不具合が生じます。たとえば草むしりなどで長く前屈みの姿勢をとった後、曲がった腰が伸びにくくなります。これは腰をかがめることで長時間縮んだ状態におかれた大腰筋が元の長さに戻らないために起こる現象です。デスクワークのあとで腰が伸びにくくなるのも同じ理由です。
高齢になって多くの方が背中の丸くなった円背姿勢になるのも大腰筋の短縮が作用しています。長年にわたって前かがみの日常動作を繰り返すと次第に腰が伸びなくなり、その結果、脊柱の関節が弾力性を失って生ずる姿勢です。
歩行動作に対する影響も見逃せません。多くの人は、加齢に伴って外股傾向や0脚が進みます。こうなると前傾姿勢をとってもしっかり大腰筋に張力がかからなくなります。その結果、次第に足があがりにくくなるばかりでなく、太ももの前面にある大腿四頭筋にも力がかからなり、大地を力が低下し、歩行動作のスピード・エネルギーが大きく低下するのです。
大腰筋のもたらす腰痛体質
【柔軟性の低下した腰椎】
ほとんどの生活動作、作業動作は、上半身の前傾をともないます。身体をそらす姿勢は、背骨の構造上、長時間続けることができないのです。上半身を前傾しいた姿勢では、大腰筋が短縮した状態におかれます。たとえば椅子に座っているときは、股関節を曲げたえず大腰筋が縮まっています。大腰筋が縮まってのびずらなくなると、腰椎部は硬くなり、極端な前彎、あるいは後彎した腰椎が生まれます。
この状態で立ち上がると、伸びない腰を無理に伸ばすことになります。当然、腰椎は極端に硬くなります。このようにして弾力性の低下した腰椎が慢性腰痛の原因となる腰椎4・5番の前方変位を引き起こすのです。急激に前傾した仙骨面の上で身体の重みを支える下部腰椎の宿命といてもよいでしょう。
【腰を緩める順序が重要】
大腰筋は、腰椎の柔軟性を回復するうえでも障害となります。一般的な大腰筋のストレッチは腰椎部を反らしておこないます。このポーズは、腰椎4・5番に前方変位を抱える人にとって、痛みを引き起こすポーズに他ならないのです。
大切なのは順序です。腰椎がしっかり後ろに張り出した状態を作ったうえで、大腰筋の柔軟性を取り戻さなければなりません。そのためには、まず仰向けに寝て骨盤の下にまくらを入れ腰を丸くした姿勢をしっかりとりましょう。腰椎の後方をしっかりと開かせるのです。
もし右なり左に痛みが偏ってい場合は、痛みのある反対側に体を曲げたり捻ってみてください。右腰が痛ければ左曲げ・左捻じれに、左腰が痛ければ右曲げ・右捻じれにします。こうすると神経根症を起こしている椎間孔より開く形になります。痛みを忘れるようなラク~な感じになることが大切です。