顎の痛みの対処法


顎関節症候群


顎の痛みと内側翼突筋ものを食べるときや言葉をしゃべるのに顎が痛くて口があけられなくなると生活上さまざまな困難が生じます。このような症状を顎関節症と呼んでいます。

顎関節症は、一般に関節の不整合によるものと考えられています。しかし、実際には筋肉に対する調整によって痛みが解消したり大きく軽減する場合が少なくありません。これは、顎関節のもつ運動特性によります。

わたしたちのは、切歯と臼歯、上下一対の犬歯からなります。切歯はものを噛み切ることにすぐれており、上下方向の顎の動きによって機能します。一方、臼歯はものをすりつぶして細かくすることに適しており、左右方向、上下方向の二方向の複合的な顎の動きによって機能します。

顎の痛みは、このような顎関節の複合的な動きに関係して発生していることが少なくありません。とくに強い痛みの発生源となっているのが、下顎骨を左右に動かす内側翼突筋です。

内側翼突筋は、頭蓋骨の一部を構成する蝶形骨の翼状突起と下顎骨を結ぶ筋肉で、下顎を左右に動かす作用を持っています。顎が痛くて口があけられないときに、この内側翼突筋の領域の痛みを処理すると痛みが軽減され、大きく口が開くようになります。

顎の痛みと開閉のルートとの相関性の検査 右図のように、片側の頬から顎の骨を押すと、下顎の骨が左右に移動するのがわかります。左右いずれかの方向から顎の骨を押し、下顎の骨を側方に移動させて口を開け閉めしてみてください。下顎の骨が少し左右に移動するだけで、顎関節の運動ルートが大きく変わるのがわかるはずです。顎の不整合と見える症状の背景には、このような下顎の骨の左右のかたよりが隠れている場合が少なくないのです。

このような顎の痛みの背景には、顎の運動をつかさどる神経系の独特な背質があります。

内側翼突筋を含め、顎の運動を司る筋肉は、いずれも三叉神経という脳神経によってコントロールされています。「脳神経の引きこす症状の特性」で紹介したように、三叉神経を含む脳神経はいずれも運動の機能と自律神経機能がしっかりと分離されていないという欠点を持っています。このため顎の運動を司る筋肉は、自律神経機能の乱れの影響をと持て受けやすいのです。


顎の筋肉の特殊な性質


 

内側翼突筋の付着部位と手によるコンタクト  とくに顎の筋肉は、全身のなかで唯一、筋肉の緊張状態を察知するモニター(筋紡錘)を持たない筋肉です。このため限度を超えた強い力で長時間のかみ締めや歯軋りなどを起こしやすいのです。

この神経は、「頭痛のメカニズム02」の「拍動しない頭痛」で紹介したように、上頚椎部や後頭の部にしばしば痛みや筋肉の緊張となって投影されます。

このような頚部の緊張は、頚椎部の椎間関節の強固な緊張や肩口や肩甲骨上角の緊張と連動して発生し、肩の位置異常のアンバランスや頚部動作の制限ととても深いつながりがあります。
外側翼突筋の付着と作用
調整にあたっては、脊椎骨周辺の緊張や関節の歪みをゆるやかに整え、三叉神経や迷走神経の緊張を取り除きます。そして内側翼突筋を中心に顎の周囲の筋肉をよく緩めてゆくことが必要です。

とくに筋肉の緊張を取り除くためには、実際に緊張の出ている調整ポイントを入念に探り当てることが大切です。多くの場合、その場で顎の痛みが改善され動きのバランスがとれてきます。

三叉神経に代表される脳神経のアンバランスは、姿勢のアンバランスや行動・動作の習慣、消化器官や精神的なストレスなど、内側翼突筋の付着と作用さまざまな身体生理と関わりを持っています。消化管の疲労や精神的なストレスは、脳神経系の緊張を招き、顔の表情筋や顎の運動を司る筋肉に影響をもたらすだけでなく、睡眠の質を低下させたり、睡眠中の歯軋りなどの不随意運動にも影響を及ぼします。

たとえば精神的に緊張しやすい体質の人は、無意識に肩に力が入りやすい傾向があります。そして、上頚椎部の運動をコントロールする神経がたえず緊張状態にあって、身体をリラックスするのがむずかしいといった傾向があります。顎の痛みに対処するには、このような点も踏まえて総合的に心身の状態を整えることが必要なのです。